バーバリートレンチコート-その歴史とディテール-
BBLのおすすめトレンチコート
すごい歴史の詰まったトレンチコート
トレンチコートを見ていくと、その中には、バーバリーの代表的な歴史が、ぎっしりと詰まっている。バーバリーの歴史=トレンチコートの歴史と言っても、過言ではない。
バーバリーの創業者、トーマス・バーバリー
創業者は、トーマス・バーバリーと言い、ドレスメーカーで下済みの修業を重ねた後、自らのブランド、バーバリーを1865年に、立ち上げた。創業したばかりの頃は、トレンチコートなんてものは、もちろん、存在していなかった。1881年にトレンチコートのもととなるレインコートが製品化された。
コットン100%で、生地を織り上げる前に防水加工が施され、防水性、通気性共に優れていたので、たちまち大ヒット商品となった。ちなみに、シェークスピアの戯曲「テンペスト」に登場する、怪物キャリバンが着用する上着”ギャバジン”から拝借して、製品名は、『ギャバジン』と命名された。
その当時は、レインコートと言えば、その当時クロスのゴム引きコートが主に出回っていたので、この『ギャバジン』の製品化は、一種の革命であった。その後、バーバリーのコートは、エドワード8世に、愛用されることとなります。
「バーバリーのコートが要る時には、私のコートを持っていきなさい。」と言われていた逸話も存在するほどです。いかに、このコートが愛されていたかがうかがえます。その後、「英国王室ご用達」=「ロイヤルワラント」を2度までも授かる高級ブランドへとのし上がっていきます。
バーバリーは、1901年に英国軍対ご用達の紳士服店かつデザイナーとなります。そして、タイロッケン(tierocken)コートが製作されることとなります。このタイロッケンコートは、いわゆるトレンチコートの前身にあたるもので、ウエストにベルトが付き、現在のトレンチコートにかなり近くなってきました。
そして、迎えた第1次世界大戦において、トレンチ(塹壕)での戦闘に適応できるように、工夫が施され、トレンチコートとして世間にその名を知られるようになります。この辺の歴史について、詳細を知りたい方は、バーバリー公式サイトのヘリテージコーナーを参照されてください。
次は、トレンチコートのディテールにまつわる歴史について、語らせていただきます。
トレンチコートのディテールに詰まった歴史
トレンチコートをディテールにこだわって、詳しく見ていくと、そこには、重厚で深みのある歴史が存在します。とても興味をそそる3ポイントを、今からひも解きます。
カラー裏にあるジグザグステッチ
これって、単なるおしゃれの為のステッチではないのです。かつて、英国軍対ご用達だった頃、全天候に対応できる機能性を追求して、寒い日、襟を立てて活動することが多くなるので、ピシッと襟を立てやすく形が崩れないようにするために、このステッチが入れられたそうです。
右肩のフラップ
右肩についているフラップ、これもおしゃれの為ではなく、襟を立てた際に雨が侵入するのを防止するためのもの。何故、右肩だけかというと、男性の服が右合わせなので、片方にしか存在しない。男性らしさをにじませるディテールである。
タイロッケンの名残のベルト
タイロッケンと呼ばれていた頃からついているベルト、D字型のリングは、これもおしゃれの為では、なくて戦闘中に、手りゅう弾やフラスコ入りのカバンを持ち歩く際に固定するための物だった。でも、今は、後ろに緩く結ぶのがおしゃれスタイルの定番
バーバーリークロスの登場
18886年、トーマス・バーバリーは、このバーバリークロスで特許を取得します。その後、探検隊が使用するテントやアノラックパーカー、飛行服、モータリングパーカーなどを次々を製作します。
しかし、バーバリークロスの地位を絶対的なものにしたのは、英国軍がトレンチコートを採用したことがきっかけです。バーバリークロスは、当時、防水性に極めて優れた綾織りコットンの布地のことです。
トーマス・バーバリーは、この防水布の開発にあたってを、羊使いの上着から、そのアイデアを得たという。つまり、生地が出来上がってから防水加工を施すのではなく、糸の段階から、防水加工を施すというアイデアである。
羊飼いが着ていた上着は、おそらくツィードのことだろう。未脱脂の羊毛を織り上げたこの上着は、糸そのものがラノリン成分を含んでおり撥水性を持つ。この製造法を見て、トーマス・バーバリーは、糸の段階から防水処理を施し方法を思いついた。
糸に、特殊な防水薬品をしみこませ、より防水性に優れたコットンギャバジンを開発することに成功した。織り方も平織ではなく、綾織り(斜め方向の織模様)にしている。なぜ、綾織りにしたかというと、筆者が推測するに、修理がしやすいというメリットがあるからだと思われる。
平織の場合、釘などにひっかけたら、その部分がカギ裂きになりやすく、修理も面倒である。しかし、綾織りだと、大概裂けても縦か横方向に裂けるので、修繕しやすい。もちろん、綾織りの方が平織より丈夫だという説もあるが、修理の利便性を追求した結果だと思われる。
ジーンズも最初は、平織だったが後に綾織りに改良された。それには、修理の時に手間がかからないようにという配慮の結果、そうなったのでは?と考える。
トレンチコートとタイロッケンコートについて
トレンチコートのディテールは実に機能性に優れている。ダブルブレストや、ショルダーフラップ、背中のヨークなど二重にすることでより防寒性や、防水性を高めている。また、首元や手首などから冷気の侵入を防ぐために台襟には金属製のフックが入り、袖にはストラップを加えた。その上ストームストラップも、付け加えられている。
それから、ベルトにD字型リングは水筒や弾薬入れを下げるための物で、またショルダーストラップは、銃床をのせる台座の役目も兼ね備えていた。あらゆる場面を想定してデザインされた、本当に優れたコートである。
高校の時レイモンド・チャンドラーのハードボイルドの小説の中に、トレンチコートにまつわる印象的なシーンがある。主人公である私立探偵フィリップ・マーロウが、見張りをしていた時に突然雨が降り出した。
そこで、マーロウは、車のトランクの中からくしゃくしゃになったトレンチコートを取り出し、それを着て、危険な任務に向かっていく場面だ。戦闘に向かう格好いい男のワンシーンを表現した場面で、この場面を読んで以来、トレンチコートは一度も選択しないで着るのが、いい男っぽくて絵になるというイメージが付いてしまった。
筆者が勝手にそう思い込んでいた着こなしを、映画「カサブランカ」で、ハンフリー・ボガートが、よれよれの左右にショルダー・パッチのついたトレンチコートを着ていた時は、筆者の思った通りだと、拍手したものだ。
この映画で、着ているトレンチコートにおけるディテールは、明らかに老舗ブランド2社(バーバリー、アクアスキュータム)とは、異なっている。ある雑誌で、「ボギーの着ているトレンチコートは、クレスト・フェーラス社の物である。」と言う記事を見かけた時には、やっぱりバーバリーでも、アクアスキュータムでもなかったと、自分が見破っていたことを子供心に喜んだ。
しかしながら、クレスト・フェラース社については以後、何も調べていない。
筆者がお気に入りのコート姿の写真がある。それには、皇太子時代のウィンザー公が映っている。ウィンザー公は右手にステッキとパイプ、左手には鴨を下げている。
トレンチコートの前身であると言われるシンプルなスタイルタイロッケンのコート、ダブルで生地は木綿である。そんなスタイルで、よれよれのタイロッケンのコートを、ベルトをきちんと締めて着ている姿が実に凛々しいと思った。